振り向く夏

 (前の記事から)
 
 
 複数のノコギリクワガタの姿を認めて近付いた一本のヤナギの木。
 その裏に回り込むと、ずっと高い位置のオーバーハングに一目で大きいとわかるミヤマクワガタがついていた。
 
 

 
 
 
 二頭映るノコギリクワガタのうち一頭目は、幹にいる一回り大きな二頭目に投げ飛ばされて細枝にしがみついたもの。
 こいつらが騒がしく動いてくれたおかげで、この木が目に付いた。
 
 映した他に足元近くに1ペア、ずっと上に大小数頭とノコギリクワガタばかりたくさんついている中に特大がいてくれれば くらいのつもりでいたため、ミヤマが一頭だけ混じっている事も意外だった。
 
 
 明らかな大物、万一採り逃した場合にせめて証拠だけでも残れば と先に動画を撮ろうとしたがどうも厳しい。
 影のオーバーハングにいるミヤマクワガタには暗くてピントが来ず、この日は風も強くて枝葉がかぶってしまう。
 望遠でもあれば良かったのだけど、持ち合わせは虫用に90mmのマクロと魚眼だけで、高所を見上げたままピント合わせに苦慮していたら首が痛くなってきた。
 
 
 
 
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 動画のフォーカスには期待できそうもない。
 そのままマクロで写真を撮ってトリミングしてみると、厚ぼったいアゴの間から口のブラシを伸ばして樹液を吸っているのが確認できた。
 
 左上に小さなノコギリクワガタが見える。
 
 
 
 
 
 
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 これが前記事の最後の画像と同じもので、後からやってきたコメツキムシと仲良く樹液を吸っている。
 太くて分厚い。
 
 こうやって少しずつ姿勢は変わるものの、オーバーハングと太いツタが接近したこの位置からは動かないようだ。
 
 ネットと腕を精一杯伸ばすと、網の枠先端がギリギリ背中に届くかどうかという所で頭側からはがす事は出来ない。
 かと言って真横から脚を引き剥がすには左右どちらかにスペースがないと網の枠が入らず、ツタと幹の間にピッタリとはまったクワガタに対して攻めあぐねるばかり。
 
 下草が深く、見失うのが怖くてあまりやりたくはなかったが、こうなったら木を揺らして落とすしかない。
 初めは幹を蹴飛ばしてみたが、同じ木についているノコギリクワガタがバラバラと落ちてくるもののミヤマは動かず。
 落ちたノコたちにしても大きな個体が多かったのだが、ここで目を離すとその隙に本命が落ちてしまいそうで、敢えて放置。
 目を据えたまま風がやむのを待ち、両手で幹を抱えて思い切り前後に揺すってやると、ミヤマが幹から脚を離した。
 
 
 ツタの向こう側に落ちていくのがはっきりと見えたが、無意識に耳が待ち構えていた 「 ドサッ!」 という落下音が聞こえない。
 どうやら途中の枝に引っかかって見失ってしまったようだ。
 
 木の裏側の枝を洩れなく調べるが、クワガタの姿はない。
 柔らかい草の上に音も無く落ちたのでは と足元を見廻しても、先に落ちたノコギリクワガタが散らばっているだけ。
 風の音とセミの声。
 
 焦りから腹の底が冷え、両手の甲が痺れるのを覚えながらもう一度見上げると、ヤナギ本体の枝ではなく、幹から枝に向かって巻いたツタの葉の影から大きなミヤマクワガタの頭が覗いているのが見えた。
 もう楽にネットが届く。
 
 
 
 
 
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 高くなりかけた空にぶら下がる夏の尻尾をつかんだ
 
 
 写真と動画のタイムスタンプを確認すると、この捕り込みに12分ほども掛かっていた。
 やれやれである。
 
 
 手に取るとやはりデカい。
 頭幅はもちろん広いのだが、やたらと太いアゴの方に目を惹かれてしまう。
 北海道のエゾ型にもアゴの太いものを見るが、向こうの個体は第一内歯が幅広の切株状になるのに対し、この個体はアゴ全体のサイズに対してイボのような第一内歯が申し訳程度にポツッとついているという感じ。
 
 
 
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 周りのノコギリクワガタも65mmを超える良いサイズだが、並ぶとさすがに小さく見える。
 
 隣にいる中型のミヤマも同じポイントにいたもので、頭に穴が開いていた。
 もしかしたら…。
 
 
 
 
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 縦のサイズとしては第一印象ほどではなく、前回の個体とどっこいという所か。
 きっちり乾燥してから改めて計測しようと思う。
 
 先の通りアゴの太さに負けがちだが、頭幅も20mmあって広め。
 今年採れたほかの大型と並べてみても、こいつは幅に出た個体なのだと思う。
 
 
 
 
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 消しゴムをかませて頭を持ち上げ、乾燥が済んだ今期の個体から大型や変わった顔のものと一緒に。
 
 左端は普通の顔した個体を比較用として。
 二頭目は体長の割に頭幅がやたら広く、全体に太った面白体型で、ishiさんと大雨に降られた日に見付けたもの。
 三頭目はそのすぐ後に藤次郎さんと一緒の日に見付けたもので、サイズはまあまあだけど脚が折れてるなあ と逃がしかけたが、アゴの湾曲が極端だったので確保した。
 四頭目はシーズン前半に藤次郎さんの持ち場で採れたもので、「最初から見えていた」 という彼の言葉が印象的。  この場所も序盤はエゾ型が多いようだ。
 消しゴムを噛んだ五頭目が今回の個体。  内歯を吸い取った分だけアゴが太ったような顔。
 1995年に地元のポイントで採れた個体をそのまま大きくしたようだとも思う。
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                                        1995年 7月19日  宮城県 ( これも妙な顔 ) 
 
 
 
 六頭目は先日の大きかったもの。 三頭目と同じく、第一内歯の少し上と端歯の手前でガクガクッと屈曲したアゴ。 今期見た地元のエゾ型には、こうした両アゴを合わせたシルエットが六角形に近いような個体も多かった。
 七頭目は私の持ち場としては大きな第一内歯の個体だが、まだフジ型になりきらない基本型といった感じ。 余裕で大台に乗るはずが、両アゴの先端を欠いているためジャスト70mmほど。
 右端の八頭目くらいになると、まあフジ型と呼んでもやっても良いかという所。
 私の持ち場で大きくて完全なフジ型というと、2007年の七月に採れた幅広の個体くらいになるだろうか。
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                                      2007年7月22日 宮城県 ( これも両アゴ先欠け )
 
 
 
 今回は大物を捕り込んですぐに藤次郎さんへ速報を入れると 「 ちょうど別のポイントへ出るつもりだったし 」 とその場へ合流しに来てくれた。
 
 「 こっちの山に一頭デカいのがいたら、向こうの山にゃもっといるだろう 」
 と欲を出し、日本むかしばなしで確実にバチ当たるタイプの二人は別のポイントへ移動。
 
 
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 さらに特大個体を追加! とはいかなかったが、藤次郎さんの持ち場にも微毛の揃った二次発生のミヤマクワガタが出ていた。
 
 藤次郎さんがパシパシと叩いた木から、雌雄ともに結構な数が落ちてくる。
 夏の初めと比べると同じポイントでも虫の集まる木が違っており、また毎年その順番がある程度決まっているのが面白い。
 
 
 
 
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 スジクワガタも多かった。
 藤次郎さんがスジクワガタばかり集まる小さな木を少し前に見付け、いくつか大きな個体も来ていたと言う。
 
 もともとこの時期に増えるコクワガタやスジクワガタ、遅れて出ているカナブンや樹液性のハナムグリ、二次発生のノコやミヤマ、しぶといカブトムシらと、今年は樹液酒場が遅くまで賑わったが、この翌日から急に涼しくなってしまった事を思うと、閉店ギリギリにうまく滑り込めたのだろうとも思う。
 
 
 
 
 
 
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  戦い終わって日が暮れて。
 
  立ち止まってくれた夏に 尽きない感謝を。
 
 
 
 
 
                             2013年 8月28日   宮城県