沼と毒薬
久し振りにやられた。
例によってスズメバチである。
ヤナギを揺らそうと幹を叩いたら、巻いていたツタの下に隠れていた個体に右手の甲と手首近くの二箇所をほとんど間をおかずに刺された。
「 これはちょっとマズい 」 と思ってその木から離れるまでに顔の右側にまとわり付かれ、振り払おうとした時に右耳をもう一発。
今回の三発で左右の被害バランスが取れた などとくだらない事を考えながら身を伏せ、ハチをやり過ごして一息。
( これは昨年撮ったもの。 普段はこれくらい近付いても平気で、 今回は不意に脅かしたために攻撃を受けてしまった )
ややあって目を上げると、物が見えない。
とうとう毒が目に回ったかと焦ったが、右耳を刺された時にハチと一緒にメガネを叩いて吹っ飛ばしてしまったらしい。
私の視力は0.03~0.06程度で、裸眼ではほとんど何も見えない。
スズメバチに刺されるよりも、メガネ無しで山から脱出する事の方がよっぽど厄介だ。
足元の草を掻き分け、視力の及ぶ地上30cmくらいの所まで顔を近付けて探して見るが、見える範囲にメガネが転がっている様子はない。
最近は雨続きでこの日も朝まで降っていたため、一帯は林と言うよりは沼のように水浸しになっているが、この広く暗い水面下のどこかに沈んでいるのか…?
そして泥水を揉むこと15分、懐かしいフレームの感触が手探りの指先に伝わった時の安堵は、スズメバチをやり過ごした時の比ではなかった。
左右の手を較べて見ると、刺された右手の腫れ方がわかる。
刺された順番は右手甲→右手首付近→右耳の順で、後になるほど腫れ方が軽くなっている。
同一個体が立て続けに刺したため、一度に注入される毒液の量が減ったようだ。
これで右耳が一発目だったら、危なかったかもしれない。
よせば良いのに と言われるが、そんな日に限ってシーズン記録の大物に当たってしまうものだからやめられない。
むしろ刺されさえすればデカいクワガタが見られるなどと思い込み、すすんで毒針に身を晒すようになりそう。
2013年 7月 宮城県。