尤物のバックボーン

 
 
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先に触れた通り 先日、藤次郎さんのポイントにいた大きなノコギリクワガタを。
標本として出来上がっても67mmは残るだろう。
例年ミヤマクワガタは多く、また大きい場所だが、大型のノコギリクワガタはあまり見ない。

内歯の空き方や先端の裁ち具合、アゴ全体の湾曲の緩さと捻りの効きなど、私の持ち場で出る個体との雰囲気の違いを感じる。
こうした地域ごとの特徴は、その個体が大きくなるほど顕著に現れるもので、私などが大型個体を求めるのはそうした顔の違いを見たいがため という所がある。



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一定サイズを超えたノコの性格は頗る荒っぽいもので、計測時にも油断するとガブッとやられる。
造りの薄い指の事でもあり、所詮は虫 などと冷静に構えていられないほどシリアスに痛い。

ノコギリクワガタが気弱で華奢だなどと言う向きもいらっしゃるようだが、一度大きな個体に齧られて御覧になると良かろう。



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この個体を左端にして、今夏私の持ち場で出た展脚中の個体と並べてみた。
色々な顔。

左から二番目の個体くらいが普通見る大歯の体格。

三番目はアゴが極端に湾曲して下に向かってしまうタイプで、近所で見る典型的な大型の顔。
頭幅も広くて強そうだが、数字としてのサイズを損しているので遣り切れない。
昨年の特大個体は、こんな顔で70mmある事こそが特異だった。

このアゴが短いなりに少し上向いたのが四番目。
上手い具合に屈曲点から先が大きく反り返ってサイズを稼いでくれたのが五番目の個体。
地元の大型個体はこの最後の一伸びが出づらく、よそならこいつも70mmいってるのに…と 毎度悔しがらせてくれる。
 
三番目の個体と五番目の個体は、先の記事にもあったようにほぼ同時に見付けたもの。
昨年特大個体が相次いで落ちてきたのと同じ木、しかも似たようなシチュエーションの事でもあり、こうなるとジンクスみたいな域を超えて、こういう木を大事にしようと真剣に思う。
 また、大型が一頭落ちてくると、絶対にもう一頭落ちてくるとしか思えずなかなか帰れなくなるので喜んだり困ったり。

右端が、少し前にも紹介した現状今夏イチの個体。
姿勢を起こすともう少し大きく写りそうだが、まだ未乾燥で頭が重く、すぐに下がってしまう。
その重い頭をよく見ると、体積が横幅だけでなく厚みにも出て、断面がカマボコのような半円形に膨らんでいる。
他の個体の平面的な頭部が、割と均一に光を反射している事から、この個体の頭の膨らみ方が幾らか伝わるだろうか。
 
 
 やはり 特大個体は一頭だけで存在しているのではなく、一帯の土壌にはそれに続く大型の個体群がバックボーンとして潜在していると思う。
 これらの特徴と変異幅を一繋がりにして見せてくれるグラデーションには確かな説得力があるし、それだけに 
 「 写真や標本による記録は重要で、そこからあらゆる不確かさは排されるべき 」
 だとする博物学時代からの先人たちの姿勢を、虫に対する愛あればこそ我々は見習われなければならないだろう。
 
 また山に行く。
 
 
 
 
                                                   2012年 8月  宮城県