赤いヘビ

 
 夏に近所の子達が 「毒蛇がいたよ!」 と騒いでいた。
 詳しく話を聞いてみると、そのヘビの体色は赤と黄。
 長さについては、両腕を一杯に広げて 「こんくらいデカかった!」 と言う。
 
 子供たちが見たのは、多分ヤマカガシだったろう。
 サイズに関しては、釣り逃がした魚が話の上で巨大化するのと同じ原理で誇張があるかもしれないが、それでも最大で1.5mほどの個体もいるとは聞くし、近所で赤と黄色のヘビと言ったらヤマカガシで決まりである。
 子供たちは単に色のイメージで毒蛇だと言っていたようだが、確かにそうには違いない。
 まあ、騒ぐほどの事ではないけれども。
 
 
 
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 夏に沢沿いで見たヤマカガシ。
 
 日陰のササの葉上にいるアマガエルを狙い、器用に体重を分散させて茎を登ってくる。
 沢をスイスイと泳いでいるのを見る事も多い。
 また、体の前半を立ち上がらせたままスーッと這う事もあり、意外に芸の多いヘビかもしれない。
 
 マムシなどのように毒蛇として有名ではないが、比較的最近である1984年に奥歯の根元にある毒腺の存在が明らかになった。
 攻撃性が低く、よほど深く咬まれないと毒は入らないが、毒性自体は強い。
 血清の準備がある機関も少ないので、注意は必要だろう。
 
 
 
 
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 これは以前にも載せた個体で、アオガエル丸呑みを試みているところ。
 あまりジロジロ見ていたからか、この時はカエルがボロンと脱け出して沢に逃れたが、顎の奥にあるヤマカガシの毒牙が刺さっていればいずれ死んでしまったろう。
 
 シマヘビなど、他のヘビがカエルを食べている時は頭から呑んでいる事が多く、ヤマカガシは尻から呑んでいる事が多いように思っていたが、調べてみると実際そういう癖の差があるらしい。
 
 
 
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 「 私も気をつけよう。 」 とカエル。
 
 ヤマカガシは奥歯根元の他にも、首の部分に別種の毒を分泌する頚腺を備えている。
 最近知られた牙の毒よりも、むしろこちらのサブウェポンの方が古くから認識されていたようだ。
 あまりいじめたりすると、この頚腺から毒液を噴射する事があり、目に入ると失明もありうると言う。
 
 この頚腺の毒は、捕食したヒキガエルの毒(ブフォトキシン)から造られているそうだ。
 我らが宮城県金華山にはヒキガエルが分布しておらず、ここのヤマカガシはやはり頚腺に毒を持たない。
 海底の石などを齧り、そこに含まれる毒素を蓄える(テトロドトキシン)フグを思い出させる。
 
 
 
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 ヤマカガシ単体で道路などを這っている所を見ると派手に見えるが、こうして湿った林で木の幹に登っていたりすると意外に目立たない。
 この時は頚部の黄色だけが動いて見え、最初は何か知らない虫でも歩いているのかと思った
 こういう事は、本来の生活環境に置いて見ないとわからない。
 
 ホオズキの古名は酸漿。読みは 「かがち」 で、同じ朱色を持つヤマカガシの語源はこの辺りにあるとも言うし、「かがし」 は蛇の古称で 単に 「山のヘビ」 を表したとも言うが、どちらとも言い切れないようだ。
 
 
 
 
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 派手に見えて目立たない赤黒の配色は、同じ林の同じ木で見るアカマダラコガネに似ているような気もするがどうだろう。
 この時は樹液の出口が小さかったが、普段はもっとベタベタの所に来ている事が多く、この体色がより溶け込んでいる。
 
 全く類縁なく形も違う生物が、同じ場所で体色を同じくしているというのが微笑ましいと思う。
 
 
 
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 秋も遅くなってから、マンションの駐輪場にヤマカガシの赤ちゃんが迷い込んできた。
 最初はミミズでも落ちているのかと思ったが、かわいい目が付いている。
 夏に子供たちが見たものの子供かもしれない。
 
 頚部の黄色は幼体の時の方が目立つようだ。
 
 
 
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 コンクリートの乾いた床を這い回ってホコリをくっつけてしまっていたので、裏山に逃がしてやる事にした。
 尻尾をつかむと、ペロッと舌を出す。
 
 今頃はマイマイカブリなどと一緒に冬越しし、数年後には大きなヘビになって、また子供たちを騒がせてくれると良いと思う。
 
 
 
                                                2010~2012年  宮城県