BIG ONE

 
 
 以前から同じ宮城県で採集を続けている藤次郎さん
 先日お会いした際に、
 「今年も県内にミヤマ採りに行ってて、一緒に連れて行った甥っ子の採ったヤツが大きくてさあ。」
 と仰る。
 
 
 気になる。
 
 
 これがその辺の人の言う事ならば
 「ほう、宮城で70mmもあったら立派な物ですな…」
 などと余裕の笑みを浮かべながら聞いていられる所だが、相手は藤次郎さんである。
 
 2008年に彼から譲って頂いたミヤマクワガタが、72mm台後半の大物だった。
 その時
 「これをどこで!?」 と尋ねると、
 「県内のあっちの辺りだけど…」 などと事も無げに仰る。
 私とは全く無縁のエリアであり、その個体も私が見る場所のミヤマとは違う顔をしているので、驚いたり唖然としたり。
 
 その彼が「大きい」と言うのだから、それは大きいのだろう。
 どれほどか気になる。
 
 採集者である彼の甥っ子さんがその個体を死後保管していると伺い、展足してサイズを測って見る事に。
 
 
 
イメージ 2
 
 
 
 これが展足完了したその個体。
 思ったより脚などがしっかりしていたので、思ったより上手く標本になった。
 
 体色はかなり黒っぽく、幅よりは縦方向によく伸びたスタイル。
 アゴは綺麗な基本型、符節は短めで頑丈な感じ。
 
 これはサイズを稼いでいそう。
 
 
 
 
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 やはり大きかった。
 計測75mmで、胸腹間を詰めて74.5mmという所。
 
 
 右隣は、前述の通り藤次郎さんが2008年に宮城県内の同ポイントで採集した個体。
 こうやって並べて見ると、兄弟のように似ている。
 これが「このポイントの顔」 という事だろう。
 
 
 
 
 
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 耳状突起は末広がり。
 私が見るポイントで出るような、耳がやたらに拡張して目が隠れたような顔とは全く違う。
 
 どちらかといえば、この顔が図鑑などに見る標準的ミヤマクワガタという感じがする。
 
 
 
 
 
 
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 こちらは私が2007年に採集したもの。
 ミヤマは元々変異が多様ではあるが、これを上の個体と較べると同じ宮城県でもずいぶん印象が違うと思わされる。
 
 北海道の個体とも違う、第一内歯が切り株上にならないエゾ型。
 張り出した耳状突起で複眼が隠れる。
 
 普段はあまり意識しないが、藤次郎さんや甥っ子さんが採集している個体と較べてみると、ずいぶん体色が明るく赤っぽく見える。
 もちろん同ポイントで黒いものも出るし型も一定ではないが、数多く見るうちにその場所の顔の傾向が見えてくるので、他のポイントの個体を見ると
 「ああ、よその子だな…」 と感じるようになるものだ。
 
 
 長らく県内の王位を守ってきたが、これが74mm。
 藤次郎さんの甥っ子さんが採った個体がこれをサイズで上回り、知り得る内で県内最大の個体となった。
 タイトルを藤次郎さんの甥っ子さんへ渡さなくては。
 チャンピオンベルトでも造るか…。
 
 やはり地元での採集を継続している人は強い。
 数もサイズも稼ぎにくい宮城県だが、良い場所で長い事やっていると、こうして星を手にする事も可能という事だ。
 
 藤次郎さんへ展足完了した標本を返還しようとすると、彼は
 「いや、持っててよ。」と言う。
 「甥っ子も良いって言うし、ラベルの採集者名にあの子の名前さえ入れてくれれば良いから。」
 
 良いからって、簡単に仰るけどしかし。
 
 大変有難い事で、返礼もすぐには思い付かない。
 下げた頭が地面に潜るくらいの話だが、責任は重大である。
 自宅から火事が出た際には、家財が焼けてもミヤマクワガタの入った箱だけは死守して脱出しなければならないだろう。
 そういう価値がこの個体にはある。
 
 
 
 
                     2011年 10月31日
                     藤次郎さんとその甥御さんへ感謝・表敬しつつ