A LIMIT BREAKER

 
 超えられないからこその限界というものだが、何か天変的な要因でもあって超えてしまえばそれが現実。
 
 
 
 
 9月近くなってから特大のノコギリクワガタが採れたと聞いた時には、我が耳目を疑った。
 その実物を目の当たりにしてさえまだ、何か奇妙な夢を見せられているような気分である。
 
 
イメージ 1
 
 
 
 灯火にルッキングに、また平地に高地にと、精力的にクワガタを追い掛けておられるひささんにより、山形県において今年の8月28日に採集されたノコギリクワガタをお預かりし、展足させて頂いていた。
 
 大きな事ももちろん大きいのだが、大きくなりすぎてどうも各部位のディティールがノコギリクワガタの規格から遠ざかり始めている様子。
 あまりにもあんまりなので、標準的なノコギリクワガタの顔に覚えのある程度に採っている方には御覧頂き、私と同じように驚いて欲しい。
 
 
 
イメージ 2
 
 
 
 顔。
 
 複眼後方が著しく拡がっている。
 これが山形に多く出る形かどうかはわからないが、少なくともこうした丸く幅広い突起形状は、宮城県であまり見た事が無い。
 
 ちょっと宮城県のものと較べてみよう。
 
 
 
イメージ 3
 
 
 
 こちらは今年8月14日に宮城県で採れた個体で、およそ同寸の70mmあるものだが、やはり突起の雰囲気が違うようだ。
 
 
 
イメージ 4
 
 
 
 ひささんの個体の左アゴ
 
 先端寄りの小歯の出方が凄い。
 一旦水平に出てから前方に向かってギュッとカーブしており、七支刀のような印象だ。
 
 
 
イメージ 5
 
 
 
 同じく右アゴ
 
 こんな釣り針のような小歯を小歯と呼んで良いものか。
 小さなスジクワガタのアゴ、まるまる一本と取り替えてもわからないくらいのものだ。
 
 アゴ先端が欠損しているが、元の形はどうだったのだろう。
 欠損端近くが瘤状になりかかっている事から、蛹時には既に変形しており、羽化後に脆い部分が欠けたのではないかとも思われる。
 
 
 
イメージ 6
 
 
 
 こちらは宮城県産のアゴ
 
 太く短めだが、歯の出方としてはこちらが標準に近いだろう。
 私が通う場所では、体が大きくなればなるほど太く短いアゴになる。
 
 
 
イメージ 7
 
 
 
 勿体付けたようだが、こうしておよそ出来上がり。
 
 改めて採寸してみたが、完全な形の左アゴで測ると現状70どころか71mmという怖ろしいサイズ。
 東北で採れたものとしては、最大級の個体ではないだろうか。
 
 これがオオクワガタ狙いの灯火に飛来したというのだから驚く。
 私がこれまで見た70mm近い大型のノコギリクワガタは全て昼の樹液に来ていたものだし、樹液>灯火のサイズ傾向は確かなのだろうけれど、相手はあくまで生き物であって、どこで何に出くわすかなどわからないのだと思わされる。
 
 
 
イメージ 8
 
 
 
 こちらは今年仙台辺りで採れた大きなもので、右端で70mm。
 
 未展足時の画像という事もあるが、ひささんの個体と較べるとやはり雰囲気の違いは明らか。
 これでもう少しアゴに出てくれれば全国を狙える、と言っては言い過ぎか…。
 
 
 所変われば人変わるの如く、奥羽山脈を隔てて虫の顔がこうも変わるのだから興味は尽きない。
 稀なる傑物を検する機会をお与え頂いたひささんに感謝と共に、来週にはお引渡し致す予定である。