供するガンダーラ

 
 
 7月に入り、各地の名だたる採集家からオオクワガタ飛来の報せが相次ぐ。
 これは我らが ひさ@くわがた氏 が黙っていないだろう と思っていると、やはり7月5日~6日の連戦で大歯飛来を狙うと言う。
 
 その連戦二日目に ひささんが誘って下さったので、藤次郎さんと二人で現地へ。
 
 出発した時には 
 「 こんなに暑くなくても良いよねえ 」 
 「 コクワガタよりオオクワガタの方がたくさん来そうだ 」
 などと言っていたが、現地へ近付くにつれ空が暗くなり、やがて土砂降りに。
 
 現地で ひささんと落ち合い、新しく乗り換えたジムニーの感想など聞きつつ山へ入ったが雨はやまないばかりか風が出てくる。
 ひささんが蛾よけのゲストハウスとして六脚の大きなテントを張ってくれたのだが、蛾が飛んでくる前に完全なる雨よけとなり、そのうち強風で丸ごと吹き飛ばされてしまう。
 雨間に見渡す山肌には濃い霧が這い、気温も予報を大きく下回った。
 
 前日オオクワガタが来ていない所にこれだから、点灯前から灯火採集と言うよりもひささんの生前葬みたいな雰囲気が漂う。
 
 もう私が喪主をやるしかないか… と思われたが、どういう風の吹き回しか19時頃になると雨がやんで、どうにか点灯可能な状態に。
 
 
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 ひささんが発電機を始動、これでカメラも出せる と言っていると甲虫が飛来。
 何かクワガタのメスらしい事はわかったが…。
 
 
 
 
 
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 ミヤマクワガタのメス。
 
 大きくてテカテカしたミヤマのメスは遠目にオオクワガタと間違えそうになるが、いずれにしても ひささんの狙いはオオクワガタの大歯。
 この人はたとえオオクワガタが飛んで来ても、それがメスだと溜息をつくのである。
 
 
 
 
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 ミヤマクワガタは発生初期で微毛が揃っていたが、小さな個体が多かった。
 
 ひささんが前日採っていた個体が大きめだったが、それでも68.5mm。
 
 
 
 
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 飛来直後は体温が高いようで、地表からもすぐに飛び立とうとする。
 
 何頭か続けて飛来しているのかと思うと、同じ個体が何度もライトに激突しているだけだったりする。
 
 
 
 
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 「ひさライト」をバックにシロスジカミキリのオス。
 カミキリムシはこればかり。
 左の触角が点線に。
 
 ライトから少し離れた所を懐中電灯で照らしながら落ちた虫を探していた ひささんが、「 あっ、アレが来てますよ! 」 と言うので行って見ると
 
 
 
 
 
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 ガの死骸をくわえたマイマイカブリ
 雨に濡れた胸部が赤紫に輝く。
 
 マイマイカブリは仮死状態で越冬しているものや、夏でも樹液に来ているものを見る事が多い。
 こうした肉食昆虫本来の生き生きとした姿を見られたのは嬉しい。
 
 
 
 
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 あとは大きなガ、小さなガ…。
 クワガタだけが飛んできてくれるなら楽なものだろうけど、蛾群に全身まとわりつかれる苦労無しに灯火採集は成り立たない。
 
 ギンモンスズメモドキやムクゲコノハなど綺麗な種類も混じっていた。
 
 
 
 
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 結局2連戦にオオクワガタの飛来は無し。
 
 飛んで来る虫を撮ったりマイマイカブリを走らせたり、藤次郎さんが格好良いヒョウタンゴミムシのペアを見付けてくれたりと、私だけ楽しかったような気がして非常に申し訳ないのであった。
 
 藤次郎さんに乗せて頂いた帰りの車中、前を行く ひささんのジムニーの背中を眺めながら
 「 あの人なら今から突然Uターンして三日目に突入してもおかしくないよね。 」
 などと冗談のつもりで言っていたが、実際 こういう事 になっていたのである。
 
 
 ひささんはオオクワガタが採れなくとも諦めず、採れても驕らない。
 その 穏やかな求道者 といった姿勢、困難を越えて遠い西域へ出向くというシチュエーションに、三蔵法師を連想してしまう。
 採集記はそのまま彼の西遊記であり、私は付き従う弟子の一人として沙悟浄の衣装でも用意しておくべきか。
 
 またライト周りに呼んでもらって、次は飛来するオオクワガタを空中で写し停めてやりたいものだけれど…
 これもやはり、最後はお釈迦様次第という事になるのかもしれない。
 
 
 
 
 
                              2013年 7月6日  山形県