金の魚 銀の魚


 
 
 藤次郎さんと出掛けて、その帰りの話。
 
 この人は山菜や渓流魚にクワガタ とそれぞれの優良ポイントをキープしている。
 少し前には見渡す限りタラノメばかりという山からの採れたてを、天ぷらにしてドッサリ積んで食べたら死ぬほどうまかった などと言うので、私は悶えた。
 同じくタラノメが好物の私は、その頃インフルエンザから扁桃腺が崩壊し、泣きながらプリンや春雨ばかりすすっていたのだ。
 
 さらに
 「 春はヤマメも釣って、あれもうまかったなあ…。」
 などと藤次郎さんが続けるのでまた悶絶。
 
 
 山菜ならどうにか私にも採れるかも知れないけれど、ヤマメはどうにもならないだろう。
 そもそも私は釣りをした事がない。
 ( なぜか『釣りキチ三平』は全巻持っている )
 
 よく考えてみると、テレビなどの映像以外で実際に魚が釣れる瞬間 というものを見た事もないのである。
 近所の公園で子供たちが小魚を掬ったり、Omisoさんが真冬にザリガニ釣ったのを見たくらいだろうか。
 魚に関する浅い知識はあるけど それだけ、というところ。
 
 
 それを聞いた藤次郎さんが、その時車に積んであった道具を見渡して
 「 じゃあちょっと今からやってみよう。」
 と言い、
 「 餌がないけど、考えが…ある。」
 と思わせぶりに続け、なぜかコンビニに寄って五つ入りのクリームパンを買い、それから近くの小さな用水池へ。
 
 
 幅跳びで飛び越えられそうな小さな池である。
 
 藤次郎さんが、畳むとボールペンほどのかわいい竿を伸ばす。
 先ほどの五つ入りクリームパンは二人で二つずつ食べて残りは一つ。
 
 それを裂いて、中のクリームを耳掻きの先ほどの針につけ、
 「 ちょっと柔らかいかな。」
 と言いながら水面に投げ込んだ。
 
 
 
 クリームパンは釣りの餌として買ったんだ という事に、ここでようやく気がついたのだから私も絶望的に察しが悪い。
 
 それにしてもクリームパンで魚釣りとは、なんだか小さい子の見る夢のような話じゃないか。
 
 
 
 
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 アリなら甘いもの好きだろうけど、などと考えながら藤次郎さんが時折手首を返すのを眺めていたが、いつの間にか魚が釣れているのだった。
 驚くタイミングも無い。
 
 これはマタナゴのオス。
 水色と赤の婚姻色が出ている。
 
 小さな魚なので釣れる時も静かなのである。
 
 
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 なんだかまだ信じられないような感じだったが、魚は次々と藤次郎さんの小さな竿に掛かる。
 
 これはカネヒラのメス。
 マタナゴに較べて大きめ、と言ってもみんな5cm内外のかわいい魚。
 
 
 
 
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 ちゃんと釣れる瞬間を見ておこう と私が身構える間も無く、藤次郎さんがホイホイと手首を返す。
 
 次の魚が水面左側からあがった所。
 
 
 
 
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 空中を泳いで…
 
 
 
 
 
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 藤次郎さんの手元に到着。
 
 これはマタナゴのメス。
 産卵の時期なので、最初の画像のオスには綺麗な婚姻色が出ていたし、こちらのメスは産卵管が出ている。
 二枚貝の中に卵を産みつける時にこれを使う。
 
 
 
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 本来は最も普通に見られる部類というバラタナゴが、最後の方に釣れた。
 
 マタナゴよりも体高があって、トランプのダイヤのようなシルエット。
 オスの婚姻色はマタナゴよりも派手。
 
 
 
 
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 背中側のキラキラを拡大。
 輝く虫と同等以上に魚も綺麗だが、どの種もすぐに体色が失われてしまう。
 私が野外で魚の美しさに触れるには、今のところ藤次郎さんにでも釣ってもらい、横でカメラを構えておくくらいしか方法がない。
 自分が縁遠い分野の熟練者に遊び方を見せてもらえるのは、本当にありがたい事だ。
 
 今回は釣りと言うよりも、小さな池にクリームを投げ込むと綺麗なかわいい魚に変わる という手品を見せられたような不思議な感じもあって、なんとなく金の斧 銀の斧の童話が思い出されるのだった。
 
 
 
 
 
                              2013年 6月  宮城県