採れない話
これは先月のキタカブリ。
こうして山で見た虫の写真を載せたりしていると、
「 いつでも綺麗な虫がたくさん見られて羨ましいですねえ。 」
などと言ってくれる方もおられる。
いつでも という事はないのであって、天気一つにしても晴れの日ばかりではない。
どれだけ駆けずり回っても目当ての虫が見付からない事も ( よく ) ありますよ という虫探しの実態も、たまには書いておこう。
2月2日も例によって藤次郎さんを誘い出し、マイマイカブリを探しに出掛けた。
何も見付からないのであった。
おしまい
じゃあ、もう少し書く。
山間の微妙に傾斜した道は雪の後の雨でツルツルに凍結し、歩くと言うよりスキーのジャンプ台を滑らされるような危うさ。
有望な材をどれだけ探ってみても、出るのはクチキムシかカマドウマ。
凍った材を叩いて得物は折れる。
あまり詳しく思い出すと涙がこぼれそう。
しかし一番怖ろしかったのは、その半日あと。
夕陽に目を細めながら、滑り台化した雪道を200mほど這いずり、先行していた藤次郎さんに追い着いた時だった。
ピッケルの音を頼りに見つけた藤次郎さんの背中に、心まで凍えた私が一言
「 出ない。」
と声を投げると、彼は振り返ったものの返事をしない。
彼が無言でこちらへ歩み寄る数秒間の恐怖に堪えかね、私は
「 出ないよ。」
と繰り返す。
そして無表情の彼がカバンから引き出した容器には、大きなマイマイカブリが入っていたのだった。
いないのではなく、私が見付けられなかっただけ
という事実が負け犬ムードに拍車を掛けたが、藤次郎さんがこの苦労の結晶を預けて下さったので、とりあえず大きさを測ってみる。
まだ首がグニャグニャだが、49mm程度で姿勢が決まりそう。
同じ色をした近所の個体 ( 左二頭 ) と較べ、これくらい大きい。
身長2mもあるような外国人を見ると大きいなあと思うが、これが自分と同じ日本人で2mだともっと驚く というような感覚だろうか。
ここでいきなり49mmが出ると、幼虫の成長サイクルそのものが違っているのではないかと思いたくなってしまう。
通常2齢で蛹化の所を3齢まで育つとか…。
近所の個体と較べると脚の色が青いかとは思うが、サイズ同様もっと数多くの個体を見てみないとこの場所の安定した特徴かどうかわからない。
そして次行って採れる気はしない。
よく見ると鞘翅の縁には緑色が出ているが、これがコアオかキタカブリか となると完全にコアオと言って良いだろう。
やはり同じ場所の個体をもう少し揃えて見たくなる。
しかし、行けばまた泣くだろう
…と心中で堂々巡りが続いている。
最も哀れなのは、わざわざ苦労が多いとわかっている所へ誘われる藤次郎さんなのだが、彼がいてくれないと本当に何も見付からないかもしれないので黙っている事にする。
2013年 2月2日 宮城県。