大粒にして大味ならず
先の記事、藤次郎さんが素晴らしい色の個体を見付けた少し前の事。
12月22日は朝から寒い日で、それがわかっていながら藤次郎さんを誘って(唆して)山へ。
皆様おわかりの事とは思うけれど、向かう先は宮城県北部で目当てはキタカブリ。
新しい道路で岩手県境手前まで吹っ飛ばしてもらい、とりあえず昨期まで探っていたルートの一本北側へ。
工事の跡に切株が並んでいるのを見付け、少し奥まで入ってチェックしてみるものの虫の姿は無し。
道路上の電光掲示板を眺めると、気温は0℃から上がらず、悪い事にやや湿った雪が降り始める。
手詰まりを打開しようと大きく場所を替え、脇道を進んでスギ林へ。
「 良さそうな、そうでもないような… 」 と呟きながらしばらく進むと、左手の斜面上に突き出た立枯れに目がとまった。
新しいスギに混じって古いマツが枯れ残っている場所らしい。
私はカメラなどの入ったザックとピッケルや三脚で手が塞がり、動きが重たい。
先に斜面を登って立枯れに到達した藤次郎さんが樹皮を剥がすと…
キタカブリが樹皮下のフレークに越冬窩を造っていた。
これは♀で、冒頭の個体はその隣にいた♂。
穴の縁にすぐ雪が積もる。
藤次郎さんが崖下側に向かって立枯れにぶら下がり、 「 いま手ぇ離したらオレ落ちるな… 」 と正しい事を言いながらピッケルを振るうと、裂け目に沿うようにしてここから合計8頭のキタカブリが出て来た。
欲を言えばカメラの構えられる所から沢山出て来て欲しいが、山で一本の材から出た数としてはまあまあだろう と気を良くして先へ。
ところが苦労したのはここからだった。
湿った雪に濡れ、ブーツを滑らせながら方々の斜面を昇降しても虫は出ず、良さそうなルートは冬季通行止めで阻まれて往生。
峠を越えて夕方近く、道々目ぼしい材も見当たらないようならこのまま帰路に… という雰囲気に呑まれつつあった時に 「 あの倒れた木、どうだ? 」 と藤次郎さんが車を停めた。
道路のすぐ脇にスギの倒木。
ベソベソに湿りすぎの材で正直なところ虫が入っていそうな気はしなかったが、とにかくやらなければ試合終了というタイミングだし、二人でピッケルを突き立てる。
私はどこまで削ってもガッチガチかベソベソの嫌な二択に尽きたが、藤次郎さんはここに目をつけただけありキタカブリとクロナガオサムシが同居している所 を掘り当てていた。
顔を上げて見遣ると、道路を挟んで反対側には同様の森が続いている。
ここらを本日最終のポイントと決定し、二手に分かれて虫を探す事に。
この日は昼過ぎから夕方に掛けて急に気温が上がる妙な天候で、やたらと濃い霧が出て来た。
先のポイントでは寒くて震え続けていたのに、こちらでは暑くて汗をかくほどだが、カメラザックや三脚を置いてきた分だけ昼間よりは楽に歩ける。
材の様子を見ながら脇道へ折れ、日暮れて薄暗くなった頃に突然すり鉢状の奇妙な谷に出た。
見渡すと至る所にマツの立ち枯れや、私が二抱えでも間に合わないような大きな切り株が並んでいる。
これはカメラを取りに戻ろうか、藤次郎さんに持ってきてもらおうか と一瞬考えたが、いずれにしてもその間に真っ暗になってしまってカメラは使い物にならないだろう。
手元が少しでも見えるうちに虫の有無を確かめるべく、藤次郎さんに 「 あと15分くらい下さい!」 と採掘延長をお願いし ( 後で聞いたら一時間かかっていたらしい ) 材に当たってみると果たしてキタカブリが出た。
立枯れの折れ口、切株の樹皮下、引っ掛かった倒木の下面など、暗い中をほとんど手探りで見付けたもの。
頭胸部が金色に変わった個体が混じっているが、これがカマドウマか何かに見えたくらい暗かった。
特に大きな♀は、最後に立枯れから出た集団に混じっていた。
もう足元もおぼつかない暗さにフラつき、額で小枝を折りながら小道を戻って藤次郎さんの所へ。
「 それ、全然デカいね。 」
と毒ビンを指して言われたので45mmくらいあれば良いか と思っていた大きな個体。
後で測ってみるともう5mm余る大物だった。
河川敷だとマイマイカブリの数が多い割にサイズが小さく、山では少数ずつしか見付からないが場所によって極端に大きな個体が出る事がある というのが個人的なイメージだが実際どうだろうか。
全体のサイズが大きい分だけ体表のクチクラも厚いのか、その多層構造に由来する輝き方が他の個体よりも深いようだ。
大きな実は不味い というイメージは根強いが、キタカブリの大きさと輝きの強さは必ずしも反比例しない。
藤次郎さんに我侭聞いてもらって本当に良かった、もうこれ以上は望めない…
またすぐ同じ場所に行ってきたけど。
2012年12月22日 宮城県北部。