晩秋 頼みの顎

 
 徹夜明け、もう寝ようと思ったところにメールが。
 ろくなタイミングではないと思いながら確認すると、藤次郎さんが山へ誘うのであった。
 ここでついて行くのだから行く方が悪い。
 
 
 「 もうクワガタの時期でもあるまい。」 と呟きながら ススキにヒメオオクワガタ の写真を撮ったのが、もう二週間前の事。
 今期はもうおしまい、また来年ですね と言ってやや紋切り型に話をまとめてしまっている。
 
 
 青空の下、車を飛ばす藤次郎さんに
 「 一体どこへ向かうのか、キノコを集めてまた芋煮でもやるのか。」
 と尋ねると、
 「 決まってないんだけどね。」
 という返答。
 
 しかし、その言葉とは裏腹に車の走行にはいささかの迷いも見られない。
 漠然と恐れながら予想したとおり、実際クワガタ方面へ向かっているようだった。
 
 ガッチリ決まっているではないか… と思っても遅い。
 
 
 
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 傾斜した季節。
 もう往く秋である。
 
 冬を招く手。
 
 
 
 
 
 
 
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 ドッと気温が落ち込んだ今秋は、紅葉も初動を躊躇ったようだが、ここに来てまずまず色付いた山。
 いよいよクワガタという感じではないが、来てしまった山。
 ヤナギがあれば枝先を見上げ、黒い姿を探してしまうのが悲しい習性。
 
 ルート上にクワガタの姿は全く見られず、少し前に降った雨で削れた道を敬遠して引き返すが、途中どうしても気になる一角があって車を停めてもらう。
 日照なのか風当たりなのか、ここのヤナギはまだ水分を失っておらず美味そう。
 
 大きな木からその隣の若木に視線を下ろすと、さっきまでここにクワガタがいましたよ と言わんばかりの齧り痕が目立つ。
 「 この木なんか良さそうだけど 」
 に続けて いないな… と言おうとした時、隣に来ていた藤次郎さんがそれを遮るように
 「 いた!」
 と叫んだ。
 
 
 
 
 
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 すぐ隣の枝を見ていたのに、気付かない。
 言われれてから見れば、どう見てもいる。
 というよくあるパターン。
 
 実際は逆光でもっと見辛く、いずれにしても小さな姿。
 そこまで虫のいる雰囲気は無かった状況で、藤次郎さんもよくこれを見付けるものだ。
 
 
 
 
 
 
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 ヒメオオクワガタのメス。
 まだ居残っていた。
 
 一緒にいるのはクロスズメバチ
 ヒメオオ発生後期には、この組み合わせをよく見掛けるような気がする。
 
 
 
 
 
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 クロスズメバチは少しでも多く樹液が欲しいのか、ヒメオオ♀が今まさに齧っている部分を舐めるために彼女の頭に登る。
 ヒメオオ♀も邪魔に思うのだろう、右前脚で払おうとするものの痒い所に手が届かず。
 
 今回たまたまというわけでもなく、秋遅くのヒメオオクワガタは他の虫からも実際にずいぶん頼られているように思う。
 
 
 
 
 
                                               2012年 10月27日  宮城県