我が町 杜王町

 荒木飛呂彦の「ジョジョの奇妙な冒険」。
 連載開始時から現在まで、絶え間無い緊張感の上を超音速で疾走し続ける世紀の傑作にして、世界が認める無二の個性の結晶である。
 
 今ではジョジョといえばスタンド、というくらいのものだが、物語の重要な構成要素であるこの「スタンド」の概念が成立し、究極のパワーとスピードが時間そのものを破壊して決着をみたのは第三部。
 中学生だった私は毎週一話読むたび、新種のインパクトに全身の骨格を貫かれ、場面ごとに凍り付き、また熱狂した。
 
 その次章、第四部が始まったのは92年くらいだったか。自分がいる町をモデルとして描かれた「杜王町」を舞台にジョジョの新章がスタートした。
 これは嬉しかった。こういう場合、喜ぶより他にファンのとる態度は無いに違いない。
 時を同じくして高校に進み、第四部を読み始めた私は、ある時また凍り付いた。
 主人公の丈助が通う高校の名前は、いま放課後の教室でジャンプを読んでる自分がいる、この学校じゃないか。
 不意に周囲が薄暗くなり、一人きりで別世界に取り残されたような、奇妙な不安が背中に張り付く。
 夢からさめる ではなく、現実がさめてしまったのだ。
 
 
 最近では熱心なファンの方々が仙台を訪れ、観光というよりも聖地巡礼よろしく、作品中に現れた地名を辿ったりするのが流行だというが、これが当時の私には逆だった。
 毎週ジョジョのページに自分の家の近所の店が軒を連ね、そこを承太郎や吉良がスタンド丸出しでほっつき歩いている。
 こうなるとただ散歩してもロマンホラー。すれ違う人は六割方スタンド使い、と思わなければ歩けない。楽しかったのである。
 
 
 仙台市宮城野区 ニの森と幸町二丁目、三丁目が接する三叉路にあった「ドラッグきさら」は最近まで残っていたが、今は別名義のビルが建ってしまった。作品中では「ドラッグのキサラ」という名前で出ている。
 かつてはナースキャップを着けたダックスフントの絵の看板が目立っていたが、誰か写真でも残していないものだろうか。
 すぐ隣とはいかないものの、同じ通りにローソンもあったので、「幽霊の小径」のモデルと言っても良いかも知れない。
 この場所の地名「ニの森」は、魔少年BTのニの森先輩や、ノーヘル露伴がバイクで突入した二つ杜トンネルの名の由来である。
 
 
                                  2009年 4月10日