私的開幕

 
イメージ 1
 
 
 
 
 ここ三日ほどで急に暖かくなり、今日も予報通り晴れ。
同行者に車で迎えに来てもらい、昼前には出掛ける事を決定した。
 
昼食に北環状線沿いの美味しいうどん屋を経由し、市内南部の蕃山の麓で車を降りる。
 四月をもって正月とする我々のような採集者には自明だが、目的はヒメギフチョウだ。
春の姫神などと称される可憐な小型アゲハである。
バッグを揺らし、山の登り口に向かって歩いていくと、こちらと入れ替わるように淡い黄色の蝶が林を抜け出して来る。
微風と押し合い、人の胸の高さ辺りを揺れて飛ぶ黄色と黒のツートンカラーの姿。
ヒメギフチョウと確認した。
今年の春が迎えに現れたような、もっと言えば春から夏を呼び、空の下の全天然を運行する何者かに不意打ちを喰らったような思いに駆られ、ネットは振らずに見送った。
 
起伏の大きな林床を少し奥に進むとカタクリがわずかに咲いているが、株数全体に占める開いた花の割合はわずか。
風は強すぎず、陽当たりも十分だが、飛ぶものの姿は無い。
暖かくなったとはいえ、仙台で春が回り始めるにはまだ少し早いようだった。引き上げる事にする。
 杉が囲んだ小渓を戻る途中、同行者の
「チョウチョだ!」
という声に振り向くと、膝の高さを這うように飛ぶヒメギフチョウ
鞄を担いだ左肩を前に回す勢いを使い、右手のネットを後ろに振り回して捕らえた。
小さなオス。後翅の赤、青紋の鮮やかな個体である。
これまで自分が採集したヒメギフチョウの記録の内、最速は2005年の4月6日に権現森で得たオス。この日の仙台の最高気温は26度という冗談みたいな数字だったが、今日はそれを一日更新した事になる。
一般には正月の決まり文句になるだろうが、山通いの我等が新年は四月。春から縁起が良い、とここに宣言したい。
 
 
                                2009年 4月5日