11年度 掘り尽くし
虫を採りに行き、幾らか採ってきた という何でもない話なのだが、まあいつもの事として御勘弁頂きたい。
三月三十一日は言わずと知れた年度末。
年度替りで有料道路の無料措置が終了となる事もあり、宮城県内のキタカブリを少し追加する事に。
少し前に目を付けて置いたポイントへ、藤次郎さんと昼前から突入。
最初は小さな池周りをあたって見たが、どうも明る過ぎるし材の状態も良くない。
進退を決めあぐねながら林道の分岐を一つ引き返すと、暗い林の中に立ち枯れが見える。
この辺りだろう、と見当が付くより先に、何の気なしに手を付けた所から虫が出てしまった。
スギの疎林にマツの立枯れが混じっている という様子で、両樹種ともにキタカブリが入っている。
虫が出るのは嬉しいが、同時に雨が降り始めてしまう。
今年二月から三月にかけての週末は、本当に雨や雪が多かった。
これでもう六週連続で雨雪に降られた事になり、我々はもう嘆かずに諦め、精神的水棲生物へと進化適応を遂げた。
全身濡れ鼠でも泣かない。
少し上の越冬窩から落ち、歩き出すオスと削り屑の中に潜ろうとするメス。
人間は濡れても平気だが、カメラはいけない。
この二頭を撮っている途中で雨は本降りとなり、例によってカメラはザックにしまったきり出せなくなった。
私が立枯れから次々に虫が出て来るのに気を良くして倒木を後回しにしていたその頃、藤次郎さんは一本の倒木からキタカブリをゾロゾロと出していたようだ。
それほど離れていない所にいるはずなのに一言も聞こえないので、よほど採れていないのではないかと思い、立ち枯れを薦めようと近寄ったら、無言のままキタカブリで埋まった毒ビンを見せられ驚かされたものである。
三桁に届く大越冬集団 などという状況には出会わなかったが、私でも二~三頭ずつ入った小部屋を数多く見付けられたので、ここらの生息密度は高そうだ。
ものすごく大きな期待を掛けていたという訳でもなかったのだが、これは良い場所。
来期以降のためにも、探し尽くさずに材を残す事にした。
昼前に入った場所から昼過ぎに引き上げるなど、私の採集としては異例なのだが、雨で写真の撮れなかったキタカブリをやたらに追加してもつまらないし、地域変異の面白い虫を同じ日に一箇所で採り過ぎても仕方ない。
野外で撮れなかった写真を屋内で補う事は出来ないが、せめて現時点で仮展脚が済んで並んだものから御覧頂こう。
雌雄を分けただけで順番は適当なのだが、ここらの並びだとオスの鞘翅色の明暗が判りやすそう。
一口に言えば緑色だが、若草色から苔緑色まで様々。
同じくオス。
ここ四頭の並びだと、明暗とは別に青~緑の色味の違いが見やすそう。
一個体ごとに頭胸部の色と連動しているわけではなく、鞘翅は鞘翅として独立した構造色を造っている。
オスの大小。
偶々この並びとなった所なので、左の個体よりももう少し小さなものもいたが、大体このような差。
およそ30~40mmくらいの範囲に収まるようだ。
中央の個体はオスとしては太っている。
こちらはメス。
左の個体は頭胸部が暗くつぶれた赤色。
意外にこうした暗い色のキタカブリも多い。
大きなメスだと、鞘翅の間室が目立つ。
この辺りもメス。
左二頭の色の対比、頭胸部と鞘翅の明暗が逆転しており面白い。
右二頭は藤次郎さんの採集品のうち大きかった個体だが、この体幅…。
体長で言うと左から二頭目の個体の方が幾分か大きいのだが、目方では右二頭が圧倒的だろう。
モンローマイマイなどとも違う、物騒な太り方と言うしかないと思う。
横から見ると、中央・奥の個体はゾウガメのように背側が高まっている。
これ以上横に太れないとなると、上手く作ったホットケーキのように上へ膨らむしかないという事だろうか。
今期はもう良いだろうと切り上げた採集だったが、展脚中にこうして色々な個体を眺めていると、まだ他の場所を探して見たくなるから、困ったものだ。
もう他の虫が出てくると言うのに、いや本当に困ったものだ。
それが困った顔か と言われれば、返す言葉は無い。
2012年 3月31日採集。