常温は氷点下

 
 
 今年に入ってからは、仙台の市街地から宮城県南部に掛けてマイマイカブリを探し歩いており、キタカブリが生息する県北部の調査は疎かになっていた。
 行く気がなかったというわけでもないのだが、今期はタイミング悪く寒波に当たってしまっている。
 
 虫のためなら極寒に耐える事も吝かでないが、我慢で解決出来ない問題も。
 マイマイカブリが越冬しているのは切通し脇の崖土や枯材の中だが、あまり寒いとこれらが凍ってしまって掘り出す事が難しくなり、雪が積もれば崖も倒木も隠れて見えなくなってしまうのである。
 
 ここしばらく寒波の出方を窺っていた所だが、すぐに雪が溶けて山歩きが楽になる様子も無い。
 もう待っていても仕方が無いので、敢えて最高0℃の寒い日にキタカブリを見に出掛けた。
 
 
 今回見たのは以前から目を付けていたエリア。
 少し前には藤次郎さんが綺麗な若草色の個体を出していて、ここを基準に少しずつ移動しながら条件の良い場所を絞る事にした。
 
 午前中から入った山中は寒く、所々凍りついていてブーツが滑る。
 誰もいない静かな林間に、度々足を滑らせ短い叫び声を響かせながら歩くが、なかなか虫は見付からない。
 
 マツの枯材など条件の良さそうな所を調べ、ようやくマイマイカブリの姿が と思ったものの、出て来たのは残念ながら死骸だった。
 
 マツが駄目なら広葉樹である。
 ここのマツは割と最近植えられたもののようで、山中でも比較的平坦な所を中心に見られる。
 
 広葉樹が残っているのは植林しづらい場所。
 つまり、凍った急斜面に張り付いて虫を探す事に。
 
 
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 ようやく見付けた有望な材も、ガチガチに凍結していてピッケルを打ち難い。
 部分的に柔らかい、と思った所からマイマイカブリが出始めた。
 
 暗めの色で古いメスだが、やはり背中は緑色のキタカブリ。
 大きな個体だった。
 
 
 
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 こちらはオス。
 背中の緑色が明るくてキタカブリらしい個体。
 雌雄を比べると、オスの方が色鮮やかである事が多い。
 
 珍しく材の折れ口に頭を向けて眠っていた。
 材の繊維の隙間に氷の粒が光っている。
 
 
 
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 崖から生えた木に片手で掴まって体を支えながら、ガチガチの材にピッケルを突き立てるのは疲れる。
 真冬日に数頭キタカブリが見られたし、もう良かろう と道まで戻り掛けに登った斜面で見付けたマツの切り株を一応チェックしてみると、大小の尻。
 
 
 
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 頭側を開いてみると、雌雄のキタカブリだった。
 
 ここらのマツはあまり良くないかと思っていたが、重要なのは樹種より周りの斜度・湿度という事だろうか。
 とにかく出てくれれば嬉しい。
 
 
 
 
 
 
 
 いつもだと触れば少しは動き出すものだが、この時は-2℃ほどまで冷えていて、さすがのマイマイカブリも微動だにしない。
 これでは、よく選ばれた越冬場所でなければ春まで生存出来ないだろうと思わされる。
 
 また、防寒に適した場所に潜る因子を持つ個体が選択的に生き残ってきた結果がマイマイカブリの越冬上手であり、適当に探してもなかなか見付からないのも頷ける。
 
 
 
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 雌雄ともに明るい色。
 
 オスは、前に藤次郎さんが出した個体ほどではないが頭胸部が青味を帯びていて面白い。
 この辺りは青が出やすいのだろうか。
 
 左のメスは頭胸部が桃色で光沢が特に強い個体だったが、頭が向こう側に倒れてしまってせっかくの色が見えない。
 そのうちクリーニング、展脚後の写真を載せようと思っている。
 
 
 やはり宮城県のキタカブリは変異幅が大きく、また土台となる鞘翅の緑色も素直で美しい。
 これで北斜面の雪さえ溶けてくれれば…。
 
 溶けなくてもまた探しに行くだろうと思うので、身内諸氏は御準備を。
 
 
 
                                               2012年 2月  宮城県北部。