飛ぶ!マイマイカブリ

 
 マイマイカブリを探して、やや明るい林内を歩く。
 斜面にへばりつくようにじりじりと移動しながら枯材にあたっていると、太くて皮の厚そうな有望株を発見した。
 
 これでハズレの訳が無い と端から樹皮を剥離すると、
 
 
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 青くて大きめのメスが、今回の一頭目
 前回に同じく、阿武隈川左岸である。
 
 綺麗なので青い個体の写真ばかり載せているが、出現率は紫色寄りの個体の方が圧倒的に高い。
 
 
 
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 もっと奥へ入り込めば良いものを、樹皮の裂け目のすぐ下に一頭。
 濃い紫色の個体。
 
 明確な越冬窩を造らず、裂け目に頭だけ突っ込んだような個体も案外多かった。
 
 
 
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 やはり条件の良い所には入居が集中するようで、越冬窩をつなげてトンネル状にして隠れているものも。
 
 この材の全面を確かめてみようと思い、脚と肩をジャッキにして裏返そうとしたところ、勢いがつきすぎて少し斜面を転がる。
 一旦回転は停まり掛けたのだが、完全停止するより先に斜度の急なところまで進み、材はそのまま斜面を転げて疾走し始めてしまった。
 
 私が全身の力で起こすような重さの材だからその突進力は相当なもので、「おむすびころりん」 どころの話ではない。
 材は8割方残った樹皮を撒き散らしながら、モンスタートラックのように凹凸の目立つ斜面を直進していく。
 
 すると樹皮の剥がれた所に隠れていたマイマイカブリが、材の回転による遠心力に耐え切れずに、次々と発射され飛び出して来た。
 
 私もそうしてどうなるものでもないと知りつつ、
 (崖を転げ落ちるチーズを追って駆け下りる海外の祭りがあったな…)
 などと考えながら、必死で材に追いすがって小さな谷の底まで駆け下り、ようやっと停止した材の脇で息をついた。
 それから少し笑った。
 
 
 落ち着いた後、材の転がった軌道上を引き返し、散らばった 「打ち上げカブリ」 を探す事に。
 回転軸に対して垂直方向に働く遠心力で振り飛ばされたマイマイカブリであるから、転がった材の軌道上だけを探して歩けば良いので回収は難しくなかった。
 
 
 
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 材の所まで降りてチェックしなおすと、深い越冬窩にしぶとく潜っていたものもいた。
 
 越冬窩の数に対して回収個体数が少し足りないようなので、念のため材の転がった痕をもう一度辿ると、やはり枯葉の上に脚を伸ばして呆然としている個体が見付かる。
 材が斜面を何回転したかわからないが、マイマイカブリも目を回したのではなかったろうか。
 
 羽根の無いマイマイカブリが飛翔する事は無いのだけれど、今回は(強制的に)飛んでいる本種を見てしまった。
 
 
 
 
 
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 とりあえずクリーニングが済んでいる分を。
 
 前回はメスばかり採れて首を傾げたが、今回はそこそこオスも採れた。
 マイマイカブリを探していると、場所によって性比の偏る事が多いような気がするけれど、どうだろう。
 
 やはり青色の比率はそれほど高くなく、北の血の影響下にある事を窺わせる。
 
 あとはアオオサムシが仙台よりも幾らか大きいようであり、クロナガオサムシはもっと大きかった。
 マイマイカブリよりゴツいものがボロボロと出てくるので、そのたびに未知の虫ではないかと焦る。
 
 
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 宮城県の南北で青色を比較してみる。
 
 右は藤次郎さんと北上した時のキタカブリ。
 中は阿武隈川左岸のブルーの中でも、やや青白い個体。
 左も同じく阿武隈川左岸の個体で、紫と青が混じったもの。
 すべてオス。
 
 頭胸部の色は、言い表せば同じ 「青」 という事になるだろうが、色味には差が。
 キタカブリの青色変異は少し暖か味のある色で密度が高く、青の中に数%の緑色成分を含んでいるように思う。
 
 宮城県南部の青色の個体は、仙台市辺りで主に出現する赤紫色と較べると変わって見えるが、この亜種 babaianus の和称 「コアオマイマイカブリ」 に従えば、こちらがその標準とも言えるのだろう。
 紫との混色具合で見え方は様々だが、やはり根本からの寒色寄りという気がする。
 
 この青や紫色が次々と空中に飛び出すのを見ながら、私は転がる材を追い掛けて走ったのだった。
 ああ、面白かった。
 
 
 
                                                 2012年1月  宮城県