SENTIコガネ

SENTIコガネ
2010/10/7(木) 午前 3:59
 
   
 普段 「センチ」 と言うと、1cm、2cmと物の長さを表す単位や、感傷的な様を言う sentimental=おセンチ が思い浮かぶが、ここ飛ヶ市博物誌で扱うからには例によって虫の話。
 
 センチコガネという甲虫の話である。
  
 
 
 一昨08年の春、ミヤマカラスアゲハを狙って太白山に登った時の事。
 
 割と良く晴れていたので午前中から山頂で粘っていたが、春に付き物の強風がやまない。
 ミヤマカラスアゲハどころか蝶影一つ見えず、今日は諦めようかと荷物を担いで引揚げようとすると、同行者が山頂に積み上がる岩の一つを指差す。
 
 その岩の上には何か黒っぽいものが乗っていて、よく見ると乾きかけた何か動物の糞である。
 「 ウンコ見せてんじゃねえよ… 」
 と通過しかけると、岩の上の糞が動いた。
 
 
 
 
 
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                                                     2008.4.27
 
 糞の欠片がコロンと裏返って、現れたのがセンチコガネ。
 糞を食べる甲虫である。
 
 あまり見る機会の無い虫だったので、珍しがって観察。
 直前に岩場に落とし、オートフォーカスイカレたカメラで撮った。
 
 
 
 
 
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                                                        2008.4.27
 
 
 
 丸く太った胸部のフォルムがユーモラス。
 糞の中に体を突っ込む際に、丸みを帯びた引っ掛かりの無い体は都合が良さそうである。
 
 前脚にしても柔らかい糞を扱いやすいような、幅広のヘラ状。
 先の符節はか細く貧弱で、他の糞虫ではこれが完全に退化・消失している種類も多い。
 
 名前の 「センチ」 は便所の古名 「雪隠 せっちん」が訛ったもので、糞に飛来する習性から名付けられたのだろう。
 下水の整備が進んでいなかった時代には、実際に屋外の便所に集まる事もあったかもしれない。
 一歩間違えば、カマドウマの異名のように 「ベンジョコガネ」 とされていても不思議は無いのであり、きわどい所だったと言える。
 
 
 この時登った太白山は、大地から突然三角錐が立ち上がったような、天然ピラミッド的な形状の山。
 その山頂に一つ小さく転がった糞の臭いを辿り、強風の中をよくも飛んで来るものだと感心した。
 
 
 
 2年たって今年、2010年8月25日。
 
 黒い虫が林床を低く飛んで来るのが見えた。
 遠目にクマバチと似て見えたが虫体そのものは微妙に小さく、旋回のモーションが少し重たそうな印象。
 
 
 
 
 
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                                                      2010.8.25
 
 これを小突いて地表に落とし、確認して見ると綺麗なセンチコガネだった。
 銅色~ごく暗い金緑色といった所だろうか。
 
 案外活発に飛ぶようで、撮っている間にも羽根を開いて飛んで行く素振りを見せる。
 
 
 
 
 
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                                                      2010.8.25
 
 
 突付かれて驚いたからか、頭を抑えてうずくまった。
 よく見ると、しまいかけの後翅がはみ出ている。
 
 本来は決して珍しい種類ではなく、採る気になれば獣糞トラップなどで山ほど集まるようだが、クワガタなどを追いかけている身には見る機会が少なく、たまに見るたび嬉しい虫である事も確か。
 
 広義のセンチメンタリズムは、涙もろさ意外のみならず直情的な喜びを含む。
 
 このセンチコガネを、 出会えば嬉しい甲虫 = SENTIMENT BEETLE 
 と考える方が、余程すっきり落ちるような気がする。
 
 
 
 ※ ひさ氏のブログ移設、アマミトビイロセンチコガネの記事に寄せて。
 
 
                              一頭目 2008年4月27日  仙台市太白区 太白山
                              二頭目 2010年8月25日  宮城県大和町。 
 
 
 
 
 旧ブログより↓
 
自分も1度だけ見たことがあります。
格好いいと感じるこの感じは
サイカブト系なんですかね?
2010/10/7(木) 午前 8:16[ ひろ1号 ]
 
 
こんにちは。
記事を見てあれっ、カブッたかな?なんて思いながら最後を見てびっくり!!
わざわざ記事を作ってくれたのですね、ありがとうございます。
引越し祝いですね。(笑)
センチを見つけたら間違いなくキープしてしまいます。
金華山も行って見たいですね~。
2010/10/7(木) 午後 0:29 ひさ@くわがた
 
 
こんばんわ、履歴から来ました。かなり遡って記事を見させていただきました。とても面白いです。
センチコガネなどの糞虫は地域柄(牛や鹿が多すぎ)たくさん居ます。道路上には潰されたコガネがたくさん!
2010/10/7(木) 午後 6:55[ 知床桜 ]
 
 
センチってそういう意味だったんですね。
また一つ勉強になりました。
糞ころがしってのとは、また違うのでしょうか?
2010/10/7(木) 午後 10:00[ しんさん ]
 
 
こんばんは^^
仙台西部ではメタリック紫のオオセンチをよく見かけます。
地面の露出する山道を散策すれば、結構目にする機会はあります。
動物の数の濃い薄いに比例して、この虫の濃い薄いもありますね。
そういう点で、山の見えない様相を知らせてもくれる虫だと思います。
色変異も楽しめる種。標本にコレクトしてみては?^^
2010/10/7(木) 午後 10:50[ Sakazuki ]
 
 
ひろ1号さん、おはようございます。
類縁は遠いものの、この丸いフォルムはサイカブトに似ても見えますね。
角付きだと、ダイコクコガネとか。
「潜る虫」というのは、どこか要不要で似てくるようですね。
2010/10/8(金) 午前 6:06 weaponshouwa
 
 
ひささん、さらにおはようございます。
お祝い、と私が勝手に言うと何か厚かましいようだったので…。
いつの間にか移設が進んでおいでだったので、まあ歓迎記事という感じに。
格好良くてオブジェじみているので、センチコガネ好きなんですよね。
オオセンチも綺麗だけど、ちょっと派手過ぎるかな。
いたらそりゃ、とりあえず捕まえてみますが…。
2010/10/8(金) 午前 6:14 weaponshouwa
 
 
知床桜さん、はじめまして。
こちらのアップ時に、同分野の記事としてリストに上がっていらっしゃったのでチェックさせて頂いてました。
デカいヒグマを養っていける土地だと、動物の糞に依存する糞虫も多いでしょうね。
牧場でダイコクコガネ探したりしてみたいなあ。
デカいミヤマクワガタや特異的に美しいミヤマカラスアゲハなど、虫やってると北海道の生物相は羨ましくて…。
2010/10/8(金) 午前 6:27 weaponshouwa
 
 
しんさん、おはようございます。
古語が元で良かったですね、本当に。
センチコガネは食糞性で、糞の欠片を引きずるような行動を見せる事はあるものの、糞球を作って転がす習性はないようです。
「フンコロガシ」となると、マメダルマコガネが糞をちぎって転がす習性を持っています。
ただ体長2mm程度と小さく、土壌調査の副産物みたいにして採れる虫ですから、ファーブルの「昆虫記」に見るタマオシコガネのような立派なフンコロガシは近所にいない、と言って良いでしょう。
2010/10/8(金) 午前 6:46 weaponshouwa
 
 
Sakazukiさん、おはようございます。
動物ある所センチコガネありで、環境指標になる虫ですよね。
私はクワガタばかり狙い撃ちして上ばかり見上げているので、案外気付いてないだけなのかも知れません。
採る気になって採った事ってないものなあ。
稀に樹液にも来るらしいんですが、実際に見たことはありません。
マイマイカブリが樹液に来るくらい、たまに、の話だと思いますが。
最近出た コガネムシ上科図説・食糞群 に出ていた、各産地色とりどりのオオセンチの標本写真が綺麗でしたね。
2010/10/8(金) 午前 7:05 weaponshouwa